TCC TALK「尾形さんって、なに考えているんですか。」に行ってきました。
TCC広告賞展2015のトークイベントに行ってきました。
概要
ルミネのコピーで有名な尾形さんに、参加者から事前に募った質問を聞いていくという催し。質問数はなんと160問。
モデレーターを立てて対話をするという形式ではなく、質問をある程度カテゴライズしながらスライドに映したものに、淡々と尾形さんが答えていく形式。
質問を見たところ、参加者は就活中の学生さんや同業であるコピーライターの方が多かった印象。
印象に残った質問とその答え
※あくまで当方のメモによる書き起こしです。
Q.コピーはどこから考える?考えるプロセスは?
A.核となりそうなものを探すところから。そこに時間の半分程度を費やす。核となるものが見つかったら、周囲のコピーライターやADに言われそうなこと、実際にポスターになって風が吹いていない感じなどを想像して、自分で考えた核をどんどん否定していく。それでも行ける核かどうか。広告は見るも見ないも自由という辛い環境に置かれるものなので、その辛い環境に耐えれるものである必要がある。
紙に書いてしまうと次の1歩になってしまうので、紙に書く前の自由に考える時間を長くとるようにしている。
Q.「運命を狂わすほどの恋を、女は忘れられる。」というコピーはどのようにして生まれたか
A.ファッション(洋服を売ること)は夏から秋の変わり目が1番難しいと考えている。春は1月であっても、花柄やパステルカラーを見たら気持ちが春に向くが、夏の暑い日に長袖を試するのは嫌。ニットに触りたいなどと思わない。
気持ちを秋の世界に持っていくには強い言葉が必要だった。ADの関谷さん、カメラの蜷川さんととにかくドラマチックに、と写真を見て考えた。写真も建物を内側に傾けることで、女の子に特殊な力があるように見えないかなど。次に進んでいく女性の心理を描こうと思った。
「運命を狂わすほどの恋を」という上の句はできていた。下の句を考える中で、男性はどうなんだろうということで30歳くらいの若い男性のコピーライターに深夜2時くらいに話を聞いてみた。中学時代の恋愛について昨日のことのように語ってくれた。女性だったらどういうだろう?と考えた。「女は忘れられる」
Q.「試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。」というコピーができた経緯
A.実体験でも取材でもない。自分はわりと洋服が好きだが、試着室で誰かを思い出すタイプではない。試着室で自分の顔も見ずに洋服ばかりを見ている。そこから零れているものがあるのではないか、というのがヒントになった。
Q.情報収集やそこから噛み砕くことをどうやっているか
A.接触してより、室内で人のことをみることが多い。何かを知りたくてよりぼんやりと。噛み砕くとき、あえて忘れるようにしている。日常で入っていくるものすごい情報量の中で、それでも残っていたものは何か気になるところがあったものなんだろうと思っている。
Q.言葉をどうやって選び並べているか。一番大切にしていることは?
A.反応力。相手が何を求めているのか。オリエンのブリーフやクライアントとのやりとりからいかに深く感じ取れるか。
それから、課題に対して都合の良いことを書いてしまっていないか。どうしても手前味噌なことを書いてしまう。オリエンはクリアできるが、世の中に対して耐えうるものであるか。15年やっているがそのことをいまだに忘れてしまうことにびっくりする。自分やクライアントによって都合が良すぎないか。
Q.コピーに対してのジャッジの基準は?
A.頭で考えて、感覚で判断する。自分のコピーはポエムと言われがちだが、ポエム先行で考えているわけではなく、世の中の状況やファッションの置かれている状況を頭でっかちになって考えている。なので判断するときは生理的に受け入れてもらえるか。どんなにオリエンに対して成立しているものでも、風が起きないなという感覚でボツにすることはたくさんある。
Q.クライアントをどのように説得しているか
A.このコピーがいかにオンブリーフであるかを説明する。このコピーがあると、こういう形でブリーフに戻っていけます、課題を解決しますということを逆から戻っていく。
Q.アイデアの作成方法
A.「今日お昼何を食べたらおもしろいかな。昨日も一昨日も蕎麦だったから蕎麦がおもしろいかな」とか、どうしたらおもしろいか考えている。くだらないこと。意外と大事。
Q.ターゲットに刺さる言葉をつくるためにどうしているか
A.ターゲットに100%刺さりますとクライアントに自信を持って言うことは難しい。最後の最後は反応が出るまでわからない。
Q.女性のコピーライターであることについて。損か得か。女性の気持ちに添えるコピーを書いていてすごい。
A.女性の気持ちをどこまでリアルに想像しているか。女性のことを四六時中考えている男性のコピーライターがいたら勝てないのでは。「女性だから」は全てではない。
女性のコピーライターは少ないので希少価値が高く下駄を履かせてもらった。一方で希少価値が高い分、性別の価値を超えるコピーが書けない。
Q.就活生で広告代理店に絶対に入りたいがどうすれば良いか
A.就活はしんどいと思う。1円ももらっていない会社に人間性を否定されたり。ただ、取り返しのつかないことはほぼ無い。死ぬか大事なことを傷つけるなどかなり特殊なこと。取り返しは後からつけるくらいの気持ちで。だから大丈夫。
Q.コピーライターとしての尾形さんの武器は?
A.自分で言うの難しい…。ある得意先に「尾形さんはものすごくコピーが書けるとかじゃないけど、そうじゃない人たち(反応しない人たち)の気持ちをわかっているのが特徴的だよね」と言われた。
Q.人間観察について
A.人間観察ってなんだろう…。駅からここに来るまでの道で日向を暑い暑いと言いながら歩いている人がいた。通りの反対側は日陰なのにそれに気づいていない。自分も似たようなことをしているんだろうなぁと思いながら来た。
紹介してくれたもの・人
<映画>
・「めぐりあう時間たち」スティーブン・ダルドリー
<本>
・池上彰さんの本
→難しいことをみんなに分かる形にする人がすごい。
・「あん」ドリアン助川
・「広告コピーってこう書くんだ!読本」谷山雅計
<人>
・斉藤賢司さん(ホンシツ)
感想
ルミネのコピーが好きなのと、自分は数表を見るなど左脳側の仕事をする立場なので右脳側の人の話が聞けたら面白そうというのが参加の動機だった。
なので、感覚的なところからでなく、ビジネスにおけるシーンから考えているということがとても意外だった。
「著名なクリエイター」というような目で見てしまっていたのだけれど、社会人であり、同じくビジネスをしている人なのだなという風に思った。特別なプロセスや物の見方から生まれているのでなく、真摯に仕事をした先に生まれているコピーなんですね。
それからやたら「女性」絡みの質問が多くて驚いた。「女性コピーライター」のコピーでなくて「尾形さん」のコピーなのになぁというのが個人的な感想。たかがX染色体はそこまで優秀ではないですよ。
それにしても、160本ノック状態で尾形さんお疲れ様です!という感じでした。
コピーライターの本棚を見損ねたのは残念だったけど、TCC広告賞展は楽しいイベントだった。ので来年も行きたい。