いちリサーチャーの日記

勉強の記録や自分の生活の観察、考えたことなど

JMRA定性調査がわかる基礎講座(オンライン講座)に参加しました

定性調査について、会社の研修を受けたり実務をしたりはしていましたが、業界スタンダードを改めて学んでみたいなと思い、JMRA定性調査がわかる基礎講座(オンライン講座)を受講しました。

自身の振り返りと、何かと情報発信が弱いマーケティングリサーチ業界への貢献になればという思いで、内容の紹介や感想等を記載します。

※本記事は実施主体等のご指摘・ご依頼などがあれば、削除・修正を行います。

講座の概要

実務経験豊富な講師たちが、体験に基づいた定性調査の魅力と基礎知識をぎゅっと凝縮してお伝えします。
これから定性調査を学ぶ方、定性調査のプロジェクトを進める上でのビギナーやアシスタントの役割を担う方にご参加いただきたいオンライン講座です。
定性調査のおもしろさ、醍醐味、実務の流れ、設計上必要なこと、注意点を、講義とワークとQ&Aで、オンラインなのに体感的に学べます。 

講師の1人である吉田朋子さんは、調査会社20年の勤務を経て独立・年間200件近くの定性調査のモデレーションを行っている凄い方。

他お2人も良いモデレータを抱えていた会社でキャリアを経ていたり、教鞭を取られていたりと実績豊富な方で大変豪華な講師陣でした。 

www.jmra-net.or.jp

 

当日のカリキュラム

2時間×2日間のコンパクトな講座でしたが、グループワークも交えながら定性調査の基礎を学べる内容。若干駆け足な印象はあったので、本当の初学者の方は前後に書籍などで予復習をされるといいかなと思いました。

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どんな人が参加していたか

厳密なカウントはしていませんが、事業会社:調査会社=1:2くらいの印象でした。部署移動や転職により定性調査に関わることになった方、別部門で機会がないけれど学びたいという方で定性調査の実務経験が0〜2年程度の方が多かったように思います。

デザイン定性調査をしているという方も若干名いらっしゃいました。

 

印象的だった内容

定性調査とは?(定量調査と比較して)

定量調査量的把握、仮説検証、確証を得たい、数字で分析をする

定性調査ヒントを得る、刺激から反応細かな感情の動きを観察、データでは掴みにくい探索・洞察を得る

探索的・診断的/有為に集めたサンプル/情報収拾は自由に変えられる/フレキシビリティに富む/再現性に保証はない/解釈・主観的/発言のみならず態度も分析対象

アンケートやデータでは具体像が見えない背景・要因・その詳細な関係、人の真意(意識していないものまで)を丸ごと理解し、合理的なストーリーを組み立てたい

 

定量調査との比較に関しては定量調査をアンケートの定量分析ではなく、非構造データのアナリティクスまで含めて考える*1と異論はあるのかなとは思いますが、「定性調査は代表性・再現性よりも、ヒントや心の動きや感情など、無意識も含め対象者への深い洞察を得ることに重きを置いたもの」という理解はそうブレるものでもないかなと思いました。

先輩社員のグループインタビューであった「定性は○○、定量は△△」というお題に対しての回答であった、定量をイラストで書かれた虹、定性を写真で撮った虹で表現した(鮮明に明確に明らかにするものと、解釈によって受け取り方が分かれる曖昧さはあるが解像度が高いもの)のはなるほどと思いました。他にも、「定量は電車で定性は車(最初にレールが必要だが確実にそこに行けるものと、どこにでも行けるもの)」、「定量は地図で定性は物語」などもおもしろく、表現力(言語化力)の高さが凄いなと感じました。

 

定性調査で行うには難しいこと

量的評価。n数が限られ、また恣意的に選んだサンプルにおいて、「6人中4人が選んだ」「評価者の平均評価点は4だった」にあまり意味は無い。意思表示に聞くのは良いが、それが調査の結論になるようだと定性調査の意義がない。

講師の方の言葉であった「見ている方は分かりやすかったり、解釈の余地が無い分、報告がしやすかったりするため、目的をきちんとしていない際に数に逃げがちになる」というのは耳が痛かったです。対象者を誘導して言質を取る、ノンバーバルを見ずに言葉だけに引っ張られるなども同様の逃げなのでしょう。

 

定性調査の成否を分けること

10分の8はそこ。条件が一番大事で、次に表現力、定性調査への適性、何を聞くかというフロー、最後がモデレータの技術。

定性調査は数値や縮図ではなく情報を取りたい。ヒントになる答えを持っている人から話を聞くことが重要。スクリーナーで「ややそう思う」の人はあまり考えていない。意識している人から話を聞いて。スクリーナーも態度ではなく行動に落として聞いた方が良い。

対象者を深く掘り下げるものだから、誰を選ぶかが最も大事というのは本当にその通りで、一方で「この人に代表性はあるのか?」ということをまだ私は考えてしまいがちで、それは自身の経験の浅さなのかなと思います。代表性は考えないというのはかなり思い切った判断だと感じており、定性調査に長く携わっている方や結果をビジネスに活かした立場の方にもっと多く話を聞いてみたいなと感じました。*2

ライトユーザーや低関与商材を対象としたものはニーズがありながら、調査課題や対象者条件の設定も広いものになりがちで打ち手に繋がりにくいというのは実感としてあり、効果的な設計を考えるのは今後の課題としたいです。

  • 目的と課題をきちんと持つこと

全ては解くべき問題を解くために

関係者のリクエストから解くべき課題を識別して取り出し、次の手が打てるようにアプローチし、結果で関係者の合意を取らなければならない

目的と課題をきちんと持つことや、調査目的(どういうビジネス課題を解決したいのか)・調査課題(この調査で何を明らかにしたいのか)・調査項目(この調査で何を聞くのか)の違いを分けて整理することは定量調査であろうとアナリティクスであろうと同様に大切なことですが、実査当日の自由度が高い・リアルタイム性が大きい・つい対象者に引っ張られてしまうなどから見失いがちになること、対象者リクルーティングへの影響度が大きいことから強調されているのでしょう。

  • モデレータの技術

これは模擬グループインタビューの中でモデレータの方は重要度が低いとしている一方で、調査会社の方は重要なものとして挙げていました。

自分の実感としても「話しやすい関係を短時間で関係者と作れるか」「誘導せず、対象者の言葉を引き出せるか・言語化を手伝えるか」「言葉に引っ張られず非言語を見れるか」「決められた時間で解くべき課題への解にたどり着けるか」などはモデレータの技術によってかなり差があるように思います。ただ、凄腕モデレータ*3リカバリに頼るような設計や関係者との握りにしないよう、リサーチの主幹は努力しなければ・・・と心を痛めてもいます。

スクリーニング時から方向性が変わってくる、明らかになっていることが少なすぎて調査課題を絞り込めないなどつらいことは多々あり、これは依頼者との関係構築やビジネスへの深い関わり、他の調査やアナリティクスとの組み合わせ、関係者のファシリテーションなどを身につけることで解決していきたいです。*4*5

 

最近の定性調査の動向

  • 定性調査の依頼内容として、依然として多いのはグループインタビューやデプスインタビュー。
  • 日本はオンライン化が遅れていたがコロナ禍で急速に進みつつある。
  • オンラインではグループダイナミクスを得ることが難しいので、グループインタビューよりもデプスインタビューが多い。ただ少しずつグループインタビューも増えてきている。オフラインで一般的な6人設計ではなく3〜4人のミニデプス設計。
  • オンラインインタビューだとモノの呈示や使用ができないため、ホームユーステストも増えてきている。
  • 環境確認の時間があり、実施までの準備期間はオフラインから短縮はされず、むしろプラスでかかるくらい。
  • モバイルエスノグラフィー(対象者がスマホで中継)も新しい動き。ゲーム案件などで。ただし対象者が見せても良いと思ったものしか見られない点は留意が必要。

 正直このテーマだけで2時間程聞きたいくらいでした。ESOMARの発信や実務やセミナー、コミュニケーションなどで情報収集していくのが現実的なところでしょうか。

 

ということで、屈指のモデレータや定性調査のリサーチャーの話が聞ける非常に学びの多い講座でした。今回は参加料も5,000円と安く参加しやすかったです。

良い師に学べることは非常に有意義なので、業務とお金の都合をつけられたら、養成講座も受講したいです。

*1:でもそれは定量調査とは呼ぶことは少ない気もする。データアナリティクス?分類むつかしい・・・

*2:経験に裏打ちされた説得力を感じるものの、「講師の方が言っているからそうなのだろう」も思考停止に思うので

*3:模擬グルインや講座の中でだけでも凄さを感じた。こういう方と一緒に組んで仕事をできるような立場になりたい

*4:志はあるのだけれど、やるのはとっても大変・・・

*5:これは完全に余談だけれど資料のスマートさはこの業界は弱いなと改めて感じたので、個人的には伸ばしていきたい。資料だけキラキラで中身が無いのも嫌だけれど、魅せ方を軽視しがちなのはあんまり良くない