いちリサーチャーの日記

勉強の記録や自分の生活の観察、考えたことなど

【読書】インタビュー調査のすすめ方/福井遥子

インタビュー調査のすすめ方/福井遥子 を読みました。

お客さまの“生の声”を聞くインタビュー調査のすすめ方

お客さまの“生の声”を聞くインタビュー調査のすすめ方

 

 

本の概要

企業(調査会社でない事業会社)が自社でインタビュー調査を行えるように、というノウハウ本。主に1to1のインタビューについて。

  • Part1~2
    インタビュー調査とはどういうものか、得られる情報がどう仕事に役立つか、実務担当者が自分で調査を行うことのメリット
  • Part3~5
    「商品開発」、「デザイン、広告」、「不振脱出」のビジネス課題にインタビュー調査をどう活用するか
  • Part6~10
    インタビュー調査の実際の進め方。企画~実施~分析~戦略立案のステップに沿って各段階でのノウハウ 

 

本の感想

 企業の実務担当者向けに書いた本ということで、part10の調査結果を生かした戦略立案の項があるのが特徴的だと感じた。

前半は定量調査の対象者設定や調査企画書・調査票作成と同様だなぁ(ので定性調査のノウハウを得ようと思った場合はそんなに…)と思ったけれど、part10を中心に企業マーケターの視点があるのがおもしろかった。

「発言をそのまま鵜呑みにして、消費者の言いなりに商品開発するのではダメ。消費者の声はあくまでヒントという『材料』。それをいかに仕立て上げるかはマーケターの力量」や「『消費者重視の戦略』は要望をそのまま実現するのではなくその裏にあるニーズを見極めたもの」というような部分には元企業マーケターならではの矜持が感じられた。

  • 言葉で語られる未充足ニーズは実現不可能技術革新の領域であることが多い。未充足ニーズは行動に表れる
  • 既存ユーザーの声(高度な要望)を聞きすぎると過剰品質になる
  • 価格が高い=興味が無いかもしれない

などは、なるほどなぁと思って興味深かった。

 

本を読んでの自分に対する気づき

読みながら、印象に残ったところを抜き書きしていたらpart8~10の部分が明らかに多かった。(part8:話を聞き出すノウハウ・part9:発言内容の分析・part10:調査結果の戦略への活かし方)

マーケティング云々とはまた別のところで「 betterなことをすることで、mustなことが疎かになったり、息切れしてしまったりしがち。」という一言は、印象に残った。優先順位大事。

 

以下は自分のための抜き書き

 part3 インタビュー調査の活用(1)商品開発

未充足ニースが消費者の言葉から直接表れることはめったにない。あったとしても「勉強しなくても英語が話せるようになりたい」など実現が難しいニーズであり、マーケティングではなく技術革新の領域。

未充足ニースを見出すには、マーケター側が消費者の発言・行動から洞察する。

人のニーズは①なりたい←②したい←③ほしいの3段階がある。

 

part4 インタビュー調査の活用(2)デザイン・広告

広告で特に気をつけなければいけないのは、その表現で誤解されないか?、意図した内容が伝わっているか?

理解できない=興味を持たないという図式になる。

 

part6 インタビュー調査の企画

なんとなく話を聞いてみるというあいまいな調査にならないよう、企画にあたっては「○○というビジネス課題があって、その解決のヒントを得るためにインタビューをしよう」という目的を、担当者自身がしっかりと認識しておくこと。

調査課題の設定に当たっては、「既にわかっていること」と「わかっていないこと」をきちんと整理して、そこで「絶対に掴みたい情報は何か」をさらに絞り込む。

 

インタビューの内容を分析し、戦略立案に結び付ける場合、「どういう人が、どういう理由で言ったのか」が重要なファクター。ターゲットでない人の意見は参考程度に留める。既存ユーザーに聞くと高度な要望が出されることがよくある。

 

調査企画書を作成するにあたり、インタビュー結果をどう利用するか(インタビュー後のアクション)をあらかじめ考えておくこと。

 

インタビューの順番として以下のようなことを考慮すると良い。

・重要度の高いことから先に聞いていく

・先入観を取り払った意見を聞きたい時は先に質問する

・話しやすい現在のことから聞いていく

インタビューフローには、そこで明らかにすべき事項のチェックリストや時間配分も書いておく。

 

part7 インタビュー実施に向けた準備の段取

インタビューのメリットである生々しさは報告書の段階になるとどうしても薄れてしまう。(ので、写真や動画があると、後々の上位者や他部署への報告やプレゼンに役立つ。)

 

part8 上手に話を聞き出すインタビューの実践ノウハウ

インタビュアーとしての心構え

①自分が真っ白い吸い取り紙になったような気持ちになること

②その人の生活をリアルに想像すること

 

インタビュー調査は、1人の人間の中でどういうロジックで購買行動やブランドイメージにつながっているかという因果関係を明らかにすることが主な役割。結果ではなく、「どのように」という理由が重要。「どのような人が」という背景情報も重要。

 

相手にホンネで語ってもらう時の表現例

・思ったまま、頭に浮かんだまましゃべってください。

・理路整然としていくても大丈夫です。普段通りの言葉を知りたいのです。

・わからないときはわからないとか、ピンとこないとか言ってくださいね。それも大事な情報なんです。

・あえて悪いことを言わなきゃとか、よいことを積極的に言おうとか、考えなくても大丈ですよ。

・「一般的には」とか「ふつうは」とかいうよりも、あなた自身が感じている個人的な意見を聞かせてください。

 

質問はオープンクエスチョンで。仮説をダイレクトに聞きたい時はクローズドクエスチョンでもOK。上手に使い分ける。

 

対象者の反応に対しての言い回し

・「○○なんですけど…」

 ←「…と、おっしゃいますと?」

  ※ですけどの後に本音が出てくることが多いので掘り下げる。

・自己仮説と違い、本当にそうかな?と思えるような発言

 ←「○○という人がいましたが、参考までにあなたはどうですか?」

  ※「○○ではないのですか?」だと誘導的になってしまう。

 

笑顔とあなたの意見は大事という気持ちを忘れない。

 

 

part9 発言内容を分析し、役立つ情報を抽出する

「消費者の生の声を聞けて満足」ではもったいない。

 

自分の仮説にあったものや大きくかけ離れたものが記憶に残りがちなので、発言録を作ると良い。マーケティング上のヒントは、インタビューの中の「ふとした言葉」にあることも多い。発言内容は極力そのままで、しぐさやニュアンス、インタビュアー側の質問も記録する。

分析は解釈の前にまず大事なポイントは情報をわけること。切り口となるのは企画書の調査課題。それぞれの調査課題に対して、事実からどのようやことが言えるのかを考えるのが「解釈」。

複数の属性に聞いた場合は、属性によって発言内容がどう違うのか見極める。

 全部の情報を入れるのではなく、課題に対して何かしら意味を持って必要そうな情報にやや絞るのがポイント

 整理作業時は、切り口の枠は必要に応じて増やす、生情報を課題に添って整理することで脳が活性化されている状態なので、予想外の気づきは忘れないうちにすぐにメモする

 

整理した次は「解釈」。切り口ごとに「そこから何が言えるのか」という「意味=調査課題に対する答え」を読み取る。それぞれの課題について分析した後、それらを基に最初に企画書で立てた「調査の目的」にたいする見解を明らかにする。結論をサポートするのが、各調査課題の分析ともいえる。

 

発言情報を分析する際に留意すること。

・当たり前の情報も聞き逃さない

・発言をそのまま鵜呑みにしない

→「赤の方が受容性が高い」ではなく、「どういう人がどういう理由で赤が良いと言っているのか」を明らかにすることが大事。消費者の言いなりに商品開発するのではなく、消費者の声はあくまでヒントという「材料」

 ・表面的な不満や買わない理由には注意。

→「値段が高い」と言うのは、商品の良さへの理解がなかったり、興味がなかったりして言っているのかもしれない。「=価格を下げるべきだ」ではない。

基本的な視点は全体から細部へ。発言情報を解釈する際は、大きく捉えてから細かく解釈する。「課題に対して1言で答えると?」→解釈に関するサポート情報を加えていく。

「誰が」、「どんな理由で」言ったのかがとても大事。しっかり分析する。

 

part10 インタビュー調査を戦略立案に生かす

そもそも調査は戦略立案のために行うことが前提。

 

企画書に立ち返って、仮説を確認する。

・企画書のインタビュー後のアクションから考える

・分析から抽出される問題点と満足点から考える

 

インタビューから導き出せるのは「少人数の声を基にした、根拠を持った仮説」


調査結果から確実に言い切れなくても、推測は大事な情報。それまでの経験や業界知識などから導き出された妥当なアイデアであることも多い。

調査でわかることには限界がある。走りながら反応を見て軌道修正も必要。

 

明らかになった課題にすべて取組む必要はない。インタビュー出てきた問題は、解決しなければならないことの候補であって、全てが解決すべきことではない。

インタビューで得られる声は、「絶対に叶えること」ではなくあくまで「消費者情報」

「消費者重視の戦略」とは、消費者情報という事実を基に、実務担当者ならではの客観的な視点で分析し、本当のニーズを見極めること。

インタビューで上がった要望自体が重要なのではなく、大事なのはその要望の裏にあるニーズ。


満足度の高い既存ユーザーのこんな機能があれば良いのに、さほど興味のない人が言いやすい理由として機能不足をあげることもある。

既存ユーザーから最も聞くべきは、満足している理由。

 


戦略立案で重要なのは書き出すこと。書き出されないことは、実行されない。

分析の段階で書いた分析結果に「とるべきアクション」、「解決策」といった項目をかきくわえると報告書として完結します。

 

ケーススタディ

インタビューの結果、「やれたらいいこと(bette)」はいろいろアイデアが生まれた。ただし取捨選択は必要。betterなことをすることで、mustなことが疎かになったり、息切れしてしまったりしがち。