いちリサーチャーの日記

勉強の記録や自分の生活の観察、考えたことなど

【読書】マーケティング・インタビューのプロ モデレーター 聞き出す技術 /早尾 恭子

マーケティング・インタビューのプロ モデレーター  聞き出す技術/早尾 恭子 を読みました。

本の概要

モデレーターを10年以上やってこられた方の本。タイトルの通り、モデレーターの「聞き出す技術」について書かれている。

対象者の話をどう聞いたら良いか、どういった投げかけをすると深層心理に迫れるか、こんな困った事態にはどう切り返したらよいかなどが紙幅を割いて具体的に書かれている。

以下章立て(「→」以降は自分のまとめ)

  • 第1章 売れるヒント発見は聞き方しだい~「聞き出す」ことの重要性
  • 第2章 人の話を先入観で聞いていませんか?~「聞ける」マインドの育て方→わかった気にならず掘り下げる。様々な視点を持つ
  • 第3章 相手のホンネ・ニーズを逃さずキャッチする~分析しながら聞く技術→発言の要素分解と統合。樹木を茂らせる。機能的価値・情緒的価値・精神的価値
  • 第4章 さらに詳しく。気になる話を深堀するには?~質問のプロセスとコツ→話を聞く・情報を分析整理・また質問するのサイクル。広がる質問。深堀する聞き方。
  • 第5章 一瞬で誰もが話したくなる空気を作る~これがプロの現場テクニック→受け入れる姿勢。ピンチ時の切り返し。
  • 第6章 提案できる人、伝えられる人になる~発見を価値創造へつなげるために→話せるようになることも大事。30秒の時間感覚。ワンセンテンスの的確なコメント 

本の感想

「自分の思い込みや理屈に流れてしまいそうで危ないなぁ、もっと生活者に向き合わなきゃなぁ」と思っているのと、定性調査に興味があるので楽しんで読めた。

ビジネススキルとしてという触れ込みで一般の人向けに書かれているのだけれど、モデレーターの仕事やGI・FGIでの様子を子細に描いたものなので、マーケティング界隈の人の方が楽しめるのではないかなと思った。先入観と戦っているようなリサーチャーとかプランナーとかマーケッターの方が読むとおもしろいんじゃないかと思います。

デプスインタビューの記録が、「実際の対話の流れ」と「モデレータの頭の中」が書かれていたり、実際の対象者とのやりとりがたくさん出てきたりするのがわかりやすくてよかった。「始めは限定しない質問から聞く」「機能的価値から精神的価値、情緒的価値へと掘り下げる」みたいな概論だけ書いてあると、なんとなくわかった気になりながら自分の肚には落ちない気がしたので。

対象者は直接答えをくれないよとか、表層的な回答で満足しちゃだめだよとか、なぜを掘り下げることに定性調査の価値があるんだよ、とかは前回読んだインタビュー調査のすすめ方にも通じる内容だなと思った。(というか私が知らなかっただけでセオリーなのだろう)

takatsuka.hatenablog.com

「重視しているのはビッグデータより定性調査」という意見を聞いたことがあって、その意図はわかるようでよくわかっていなかったのだけれど、ようやく理解できた。

ビッグデータに対するコトラーの警鐘というのも原典にあたってみたいし、一方でビッグデータ側の可能性も引き続き探ってみたい。片方の言い分ばかりを聞くのはイーブンでない気がするし、「これはできないけど、これができるよ!」というのを良く知ると、解決策の幅が広がると思うので。

「そのほうがよろしいんですね?」「どういう気持ちになれるのですか?」「どんないいことがあるの?」という広げる質問についてはなるほどなぁと思った。

それから、先入観対策として、自分でマインドマップを作るとか、売り場で選んでどうしてそれを選んだか考えてみるとか、飲み屋でいろんな人と話をしてみるとかは自分でもできることなのでやってみたい。

  

本を読んでの自分に対する気づき

・今回の抜き書きは第2章(人の話を先入観で聞いていませんか?~「聞ける」マインドの育て方)の部分が多かった。

・今回はkindle版があったからkindle版で読んだ。アンダーラインを引いた箇所をデータで引っ張れるのは「おぉ!」思ったけれど、紙の本で視覚的にどの辺が分量が多いとか、付箋をつけてどの辺りに反応したか見る方が一見性があるので一長一短かなぁ。

・今回は単純な抜き書きではなく、後からそれだけ読んでもわかるようにやや要約的にした。抜き書き→要約作成→各章を一言で という作業をしたため、本に3回くらい目を通すことになり大変だったけど、本を構造的に理解することに繋がったのでやってよかった。

・自分は実際にそれをやっている人の具体例が多い本が好きな模様

 

以下、自分のための本の要約

 

 

本の要約

第1章 売れるヒント発見は聞き方しだい~「聞き出す」ことの重要性

・「聞き出す」ことができると

 ①相手の話がよく聞けるようになる ②質問がうまくなる ③相手の話を深掘りできる

 ④話が盛り上がる ⑤新しい情報などを発見できる

・ただ、「新ドロリッチにどんなことを求めていますか?」などと質問して答えを得ようとしてもそれは無理な話。それは商品開発のプロが考えることであって、調査の現場でモデレーターに求められるのは、どんな「デザート飲料」に今満足しているのか、どんな不満を抱いているのかといった、生活者目線のナマの声の収集。

・インタビューの対象者は「答え」を直接は話さない。「なぜ?」を掘り下げていくと、開発の大事なポイントとなるキーワードが出てくる。

ビッグデータや生体データでわからない「そもそも何が欲しかったのか」「なぜ買ったのか」を知るのにDIは有効。

 

第2章 人の話を先入観で聞いていませんか?~「聞ける」マインドの育て方

・重要な情報を聞き出せず、淡々とGIが終わってしまう要因は、「わかった気」になって掘り下げず、対象者の発言を額面通りに受け取ってしまうから。

・話し始めは、「バクッと」大きな網を投げて、自由に話してもらう。

・まず当たり障りのないことを答えるのはよくあること。話し始めの段階は特に、焦らず、待って、相手の話がひと区切りするまで黙って聞くことが、キーワードを導き出すために大切。気になっても、すぐには突っ込まずに、ちょっとガマン ×「えっ? ●●って?」「●●なの?」 ○「どうして?」

・「相手が気持ちよくなるように合いの手でノセて、とにかく全部しゃべらせちゃいましょう」。  気負わず、まずワーッとしゃべってもらって、その中から見つけ出したキーワードを軸に話を聞き出していくという姿勢が、先入観を外し、透明なフィルターで相手と向き合わせてくれる。 「聞き出そう」と思うと、どうしても自分が聞きたいことの周辺に意識がいってしまう。そこから逸れてはいけないという縛りも、自分で作ってしまいがち。

・対象者を誘導したり、言っていないことを勝手に言葉にしたりしない。

・対象者によって出てくるキーワードは全然違う。自分自身で対象となる商品やサービスを中心としたマインドマップが作れると、多様な視点が持てるようになる。

・自分が売場で買う商品を選んでみて、なぜそれを選んだかを考えてみる。「なぜ?なぜ?なぜ?」と考える習慣があると、他人の話を聞いたときに、疑問が浮かびやすくなる。

・幅広い体験は大事。

 

第3章 相手のホンネ・ニーズを逃さずキャッチする~分析しながら聞く技術

・話し手の話してくれる内容は、たくさんの要素が無秩序に散りばめられている。この要素を切り分けながら聞いていくこと。

・発言を「一つの事実・一つの気持ち」で因数分解したら、今度はバラしたものを集約させていく作業を行う。調査の「目的と課題」に対してどんな知見が得られたのか、データをまとめていくことで報告書に落とし込んでいく。

・裸の樹木をイメージし、そこに十分に葉を茂らせていく。幹は何を明らかにするのかという目的。枝はインタビューフローに盛り込んだ内容や調査で検証したい仮説。樹木をイメージすることで、どの仮説に対する発言は出ていてどの仮説に対する発言は出ていないのかがわかる。葉の質と全体の茂り具合の両方に気を遣いながらインタビューを進めていく。

・聞き手は、自分が今話してもらっている情報が、機能的価値に当たるのか、情緒的価値に当たるのか、それを切り分けながら聞いていく。話し手は表層的な機能的価値から話し始めることが多い。

・ずっと「なぜ?」「どうして?」をくり返されると、聞かれているほうは心理的に追い詰められてしまう。「自分がどうなれるんですか?」「キープできるとどうなるの?」「自分の感情の言葉で表すと、どういう心地になってるんですかね」など聞き方を工夫して、精神的価値に迫っていく。(機能的価値→情緒的価値→精神的価値)

・この精神的価値は、各企業やメーカーが商品開発で目指す究極の方向性でもあり、消費者にもたらしたいベネフィットを言語化したもの。  とても本質的なものなので、「幸せ」「安心」「安全」……といった10くらいのシンプルなワードに集約されていく。

 

第4章 さらに詳しく。気になる話を深堀するには?~質問のプロセスとコツ

・「聞き出す」というのは、 話を聞く 情報を整理・分析 質問をする ↓ また話を聞く また情報を整理・分析 質問をする ↓ これをくり返す

聞き出したいことは、「一質問」VS.「一回答」で得られるものではなく、 話を聞く 情報を整理・分析 質問をする  というプロセスを踏んでいく過程で、徐々に探り当てていくもの。「この一問ですべてを引き出せる〈キラー質問〉がある」というふうに思わないほうがいい

5W1Hで情報を集めても良いが)、その時に先ほどの広がる質問、

「そのほうがよろしいんですね?」「どういう気持ちになれるのですか?」「どんないいことがあるの?」などを意図的に挟み込んでいくと、表層的な答えに留まらず、話し手の感情や考え方を伴う答えが得られるので深堀りできる。

 

<こんな時にこう聞くと深堀ができるという事例>

 ・話の方向性を見極めたい←仮説を直球で投げかける

 ・話し手が間違った知識を持ってる←「それをどこで知ったの?」

 ・矛盾する話←「先ほどは○○とおっしゃっていましたが?」「いつからそう考えていましたか?」

 ・率直な感想を聞きたい←「ワクワクみたいな言葉で言うと?」「音にして表現すると?」

 ・話がひと段落ついた←「振り返ってみて、どう?」「その時の自分になんて言ってあげたい?」(対象者に自分自身を客観視させる質問)

 ・「~じゃないと嫌なんですよね」←「どこまでならオッケーですか?」

 ・「この人は○○について知っているんだと分かったとき←「どこで知ったんですか?」

 ・「○○が習慣なんです」←「いつから始まった習慣ですか?」

 

第5章 一瞬で誰もが話したくなる空気を作る~これがプロの現場テクニック

・あいさつやリアクションで、相手を受け入れていることを伝える

・どんなテーマでどんな人に会っても、対象者にとって心地よい話し相手になれるよう心がけるのが、モデレーターの務め

・<個人的な話>をいかに聞き出せるか。モデレーターとしての経験が浅いうちは、質問に対する答えがもらえるとそれで満足してしまうが、私たちモデレーターは、本当は答えを求めているわけではない。特にグループインタビューでは、一般生活者が集まったときに起こる「そうそう」「私も」「え、そうなの?」というやりとりから得られる発見こそが重要。そうでないと、集まっていただいている意味がない。

 

<ピンチの乗り越え方の事例>

・評論家のような発言を繰り返す人がい←「自分ならどう?」「ご自身なら若い年代の方に何て言ってあげたい?」

・腕を組んで批判的な姿勢を見せている←「あ、考え込んじゃう?」「乗ってこない?」「テンション低くなってきた?」

・演説が始まってしまった!←「お話がおもしろくてつい聞き入っちゃうんですけど、他の方のお話も聞いてみたいので」

・自分のストーリーが延々と続いている←「それでどうなったの?」「最後はどうなったの?」「で、今はどうなの?」

・発言を抑えてほしい人がいる←いったん目線を合わせないようにする

・一方的に話され、実は内容が理解できていない←「すみません。私、よくわかっていないので、噛みくだいてお話し願います」

・賛成か反対か。皆に率直に発言してほしい←「今頭にあることを変えないで言ってみて

・なかなか意見が出ない←「今から一人ひとつずつ、気づいた事実を言って」

・ホンネが言えない人を見極める←「今日はあなたのことが聞きたいので」

・若手にしゃべらせたい←「へぇ、そうなんだ」

・皆が話しやすい空気を作る←発言者から目線を外して他のほうに向けてみる

 

第6章 提案できる人、伝えられる人になる~発見を価値創造へつなげるために

・聞き出せても、それをきちんとまとめて人に伝えることができなければ、聞き出せていないのと同じ。「聞き出す」ことと「話す」ことは、クルマの両輪。

・「30秒で自己紹介」30秒の感覚を体でしっかり覚えるため。ワンセンテンスで的確にコメントするため

・(聞き出すために質問するときも、聞き出したことをまとめるときも、注意したい点)

  1. 聞き出した内容のシンボリックな表現をそのまま使う
  2. キレイな言葉にまとめてしまうのではなく、トピックス的なエピソードを盛り込んで伝える
  3. 聞き出した内容を、わかりやすいキーワードに置き換える

・自分がちゃんと話せるようになると、相手は明らかに聞く姿勢になる。「話を聞こう」「問われていることにしっかり答えよう」という態度で、向き合ってくれるようになる。